【地元のものを使うからこそ地酒】
―「祝吹」や「サササンデー」のような新しい地酒と従来のお酒のバランス感覚はどのようにとっているのでしょうか。
笹口社長:まず笹祝酒造では「ローカル性を大切にする」ということをベースにしていることが挙げられると思います。そして、地元の人たちがいつも飲んでいる枠と、新しいものを求める人たちの枠で、必ず接合点がありますよね。「その接合点を目指したお酒造りを常々していこう」ということが新しい地酒造りにつながっていると思います。
―兵庫県産の山田錦や他県の酒米は使われないんでしょうか。
笹口社長:そうですね。兵庫県産の山田錦や他県の酒米を使った時期もありましたが、例えば旅行に行くとして、フランスのボルドーに行ってワインを買うときに、「これは日本人向けに開発したワインです」って言われると逆に買いたくなくなりますよね。地元の人が飲んでいる味に惹かれるんですけど、手に入らないとがっかりしますよね。
「せっかく新潟に来たのに新潟のお米じゃないのか」という気持ちになることを考えると、使う酒米を「全量新潟市産米」にこだわっています。
―新潟「県産米」ではなく、「新潟市産米」ですか。
笹口社長:はい。あえてローカルに突っ込んでいくことで、使う酒米の種類も地元密着にして、ローカル酒蔵にしてきました。意外と新しい商品もローカル然とした商品ですね。
それこそ「サササンデー」で使っている酒米「亀の尾」についてですが、田んぼのところまで直線だったら2,3kmで行けるくらいの距離に「西川」という地域があります。そこで採れたお米を使用していますし、ラベルは若い人にも受け入れられるようなデザインか気にしていますが、お酒自体は地元密着の地酒ですね。
【酒好きが共同開発する「チャレンジブリュー」】
―ところで、「チャレンジブリュー」というものを実施されているかと思うのですが、これはどのような組織なのでしょうか。
笹口社長:「チャレンジブリュー」は組織というよりも酒好きサークルのような、無料のオンラインサロンのようなものですね。メンバーの構成は、地元の酒屋さん、飲食店さん、あとはこの辺りでいろんな酒イベントに出ている日本酒好きさんなど。
―多種多様ですね。
笹口社長:「チャレンジブリュー」は僕が酒蔵に戻ってきて「新しいお酒造りをしたい」と思ったときに、そこまで若いスタッフが当時いるわけではなかったのと、酒蔵だけの発想ってけっこう限界点があるなと感じまして。そこで地元で力になってくれそうな方々に相談したのがきっかけです。
あとは、笹祝酒造から少し新潟中心地方面に行ったところに新潟大学があって、そこの日本酒サークルの方々やOBOGの方々も参加されています。
ー新潟大学には日本酒のサークルがあり、定期的にテーマに沿って県内外の日本酒を持ち寄って飲み比べをする活動をしています。
笹口社長:「笹祝の『新しいお酒』の制作会議をしよう」と、みんなでいろんなお酒を持ち寄って「このお酒はどこの蔵がこういう風に造った」とか「○○県で若手がこういうのを造ってて」とか、お酒を持ち寄りながら「どんなお酒があったらいいか」みたいなことを話しています。その「制作会議で出たアイデアの中で1つ、実現化する」という試みを毎年しているのが「チャレンジブリュー」です。
―「チャレンジブリュー」のお酒はその年だけしか飲めない限定酒なのでしょうか。
笹口社長:基本的にはそうなのですが、商品化した例もあります。「チャレンジブリュー」1年目に造った「生もと仕込み」の「笹印」シリーズの中の生酛純米無濾過酒や、3年目に造った「サササンデー」が挙げられます。
「チャレンジブリュー」の取り組みが地元のローカル新聞や、地元の雑誌に取りあげられ、ある程度注目を集めるようになったので、「3年目は新しくお酒を飲んでくれる人をつかもうよ」「3年目だから『サン』に関わることをしよう」。そして味の方向性が「甘酸っぱい酸味のあるお酒」を造ってみようということになり「サササンデー」ができました。
―味の方針も皆さんで決められるんですね。
笹口社長:メンバーの方々には「チャレンジブリュー」の工程すべてに関わってもらっています。今まで速醸しか造ったことなかったのですが「生もと」をやろうとなったときに各地の試験場や情報を集めて、メンバーにはFaceBookの限定グループに加入してもらい、「このような工程になるはずなので、この工程作業でメンバーの手を借りたいので集まりましょう!」と会議や醸造作業をします。
ー醸造作業は、お酒が今どんな状態で、そんな数値になっていて、とみんながお酒の状態を見られる状態にしているとのこと。各工程の様子がFacebookのグループから確認できる仕組みを作られているんですね。
笹口社長:お酒が搾りあがってからは、みんなでラベルを貼って、出荷をします。その際も「どの酒屋さんに卸すか」「どれくらいの金額でどういう方法で卸すか」なども話し合っています。
ー地元の方々が製造工程にこんなに密着に関わっているとは驚きです。
【酒蔵のターゲットは「お酒を飲まない人たち」】
―笹祝酒造さんは2022年11月末から「次世代につなぐ酒蔵」へ改装をされていましたよね。
笹口社長:はい。「家族全員が楽しめる酒蔵」として気軽に遊びに来られるオープンな酒蔵に改装しました。
―家族ということは、お子さまも含めてということでしょうか。
笹口社長:そうですね。未成年だけでなく、様々な要因でお酒飲めない方がいらっしゃると思います。ご懐妊されていたり、ドクターストップかかっていたり、運転手だったり、この蔵も車でないと来られない位置にあるので。お酒を飲めない方々の方が多いですよね。
ーお酒を飲める人がいても「酎ハイとかビールは飲むけど、日本酒はちょっと…」という方が増えていて、日本酒を飲める人はほんのひと握り。
笹口社長:そのひと握りのためだけではなく、お酒を飲めない方々も楽しんで、地元の醸造文化や地酒に興味を持てる施設になれたらと思い『麹の教室』をはじめ、蔵の内装を大きく変更しました。
これは僕の体験なのですが、酒蔵の息子とはいえ、二十歳までお酒飲んだことなかったので、上京した時に日本酒について聞かれて何も答えられなかったことがありました。飲んだことないので当たり前なんですけど(笑)。
でも、子供のころから「麹」に親しむことで「醸造文化」に関心を持ってもらえることはできるのでは?
「お酒は飲んでないけど、子供のころ地元の酒蔵にあった『麹の教室』で塩麹作りや、発酵の仕組みを知るイベントがあったよ」って言えたら、その飲み屋さんにある日本酒にも興味が湧いたら、素敵じゃないか。
その子たちが西蒲地域の醸造文化に誇りを持てるような、きっかけになりたいですね。
ー西蒲地域で育まれた醸造文化を、次世代の方々にも身近に感じてもらうにはどうするか。笹祝酒造さんの地域を大切にする想いが伝わってきます。
笹口さん、ありがとうございました!