杜氏自ら酒米を栽培。米ととことん向き合う酒造り。

今回は新潟県上越市にある妙高酒造へ訪れました。

「なぜ、食卓のお米は飽きずに食べ続けられているのか」香りも味も地味。だけど、優しくふくよかなお米の「旨味」があるからこそ、ずっと愛されているのではないでしょうか。
香りも味も穏やかな中に、そこはかとなく現れる「ほっとする旨味」。
そのこだわりの造りについて杜氏の平田さんにお話しを伺いました。

⚫︎昔から愛されてきた淡麗旨口の味わい

ー「妙高山 八十八」飲んで不思議だったのが、辛口のキレも甘みも感じました。

平田:それは「お米の旨味」に注目した酒造りをしているからです。
「なぜ飯米は飽きずに毎日食べ続けられるのか」って、香りや味が質素でありながらそこはかとない「旨み」を感じられるからだと思うんです。日本酒はお米のエキスを飲む商品ですから、素朴でありながら「米の旨み」を感じる味わいの方が、飲み飽きせず、飲み続けられるのではないでしょうか。
そこでお米からしっかり作ってそれを最大に生かした造りをしようと五百万石を作っています。

ー杜氏自ら酒米を育てられているんですね。五百万石ってどんなお米ですか。

平田:新潟県を代表する酒米です。スッキリとしていながら旨みの深みが出やすい品種なので、これを100%使って特別純米酒や純米吟醸を造っています。平成元年以降から平日は蔵のこと、土日で稲作りをしてきました。私の作ったお米はアミノ酸量が多く含まれているようです。淡麗の酒を造るには「アミノ酸量は少なめに」と言われるようになって久しいですが…
この傾向については、戦後のお酒、その後の「淡麗辛口ブーム」が影響しています。

昔は灘や伏見のような「濃厚な味わい」の日本酒がうまい酒でした。戦後に流通した三倍醸造酒は、コストを抑えつつ需要に対応できるよう、アルコールに糖類や酸類を加えて造られていました。時代が進み食文化も変化するうちに消費者の好みも「淡麗好み」に変化。「新潟の酒は味が薄く、砂糖水と揶揄されてきたが、これからの時代はこの淡麗さが好まれる」と、故嶋悌司(しまていじ)さんをはじめ醸造試験場の方々がけん引してアミノ酸の少ない「新潟の淡麗辛口」を築き、全国でも淡麗辛口ブームが起きました。

平田:実際、アミノ酸の少ないお酒には長時間の保存がきくというメリットがあります。ですが米本来の旨みが弱く、「醸造酒」としての価値が薄れてしまったように感じています。
海外の方、飲みなれていない方には「ワインのような日本酒」、そして鑑評会では「香り高い吟醸酒」が評価されていますね。一方、昔から日本酒を愛飲されてきた玄人の方々には、飲み飽きしない「旨味のある酒」の方が好まれています。
このギャップに葛藤はありましたが、お米の質、麹造り、酵母の調整にもこだわった「味重視」の酒造りを貫いています

⚫︎お酒の要は「麹造り」

ーお酒造りで特に要になっているのはどの工程ですか。

平田:「麹」ですね。この土台がないとお米の旨味は出てきません。麹用の蒸米の水分量、麹菌の繁殖、菌種の伸び。このバランスでいかに良い「麹」を造れるかでほぼお酒の出来栄えが決まります。麹の持つ酵素力「力価」に注目して、様々な状態での値を調べてもらい15種類ほど麹室にいれているのですが、蒸米の水分量をデジタル表示の秤で計測して、理想の数値になったところで麹菌を散布しています。(おそらくこの手法をしている蔵あまりないと思います。)「タンパク分解力を抑えるために速やかに40℃まで発酵温度を上げる」ことが全国的に推奨されているので。

●酵母をブレンドして雑味を抑える

平田:協会酵母をそのまま使っている蔵の方が多いと思います。ですが、酵母の性質上、それぞれ良いところも欠点もあるんです。なのでこの蔵では毎年造りの初期に醸造協会や新潟県醸造試験場から仕入れて、試験管で培養したものを、自社でブレンドしています(自社培養酵母)。培養した酵母のうち、相互補完できる酵母を2種類ブレンドして、酒母の仕込みに使用します

ー協会酵母をブレンドするとどんなメリットがあるのでしょうか。

平田:こうすることで発酵の反応が早くなり、他の菌が入るスキを与えずに、澄んだ味わいに仕上げることができるんです。相互補完できる酵母を使うことで、発酵のスタートダッシュを早めることができ、雑菌が繁殖しにくい環境を作ることができるというわけです。
酵母の組み合わせはその年の気候を加味して調整するのですが、平成初期ごろに鑑定酒合宿で習得した技術を後輩に継承しています。

⚫︎「低温貯蔵」でベストな味わいをしっかりキープ

平田:これが実は一番重要なのですが、「過熟を抑える」ことが欠かせません。品質が変化しないように「低温貯蔵」でしっかり状態を保持すること。これがみそですね。日本酒の中にはアミノ酸と糖(グルコース)が存在しているので、酵素の活性を止めないとどんどん味が変化してしまいます。クセが出ないように搾ったら早めに瓶詰めをして、火入れ(殺菌処理)をして、大きな冷蔵庫で保管しています。鑑評会用のお酒もすぐ劣化してしまうので、大吟醸、純米大吟醸は搾ってから3、4日で火入れをして劣化を防止しています。

醸造設備は蔵によって千差万別ですが、与えられた環境の中でいかに酒造りをまとめて、品質の高い酒を提供するかという使命を他の杜氏さんも感じています。

ーどのお酒も愛着あるかと思いますが、特に好きなお酒はございますか。

平田:やっぱりお米から手掛けている「杜氏栽培米純米大吟醸」あと、「越後辛口おやじ」ですね。「越後辛口おやじ」は本醸造なのですが、舌にべたつかず、さらっとした辛口。でも旨味があるのでダラダラ飲める。地元ではロングセラーの日常酒です。

「お米の旨み」は、学校の給食や食卓で味わってきた原風景の味。
ワインのように香り高いもの、甘く酸味のあるもの、様々な入り口ができた今日の日本酒。
里帰りをする感覚で「お米の旨み」を試してみませんか。

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