瀬戸内海に面した美味しい牡蠣がとれる町。広島県東広島市安芸津町(あきつちょう)にある柄酒造を訪れました。安芸津町の軟水の特性を活かした伝統技術『軟水醸造法』を代々受け継ぎ、約170年。さらなる挑戦をしています。
西日本豪雨の際廃業の危機に見舞われましたが、地域の方々の協力も経て復活。
日本酒における「広島らしさ」とはなにか、を探求する9代目蔵元の柄総一郎さんにお話し伺いました。
ジャケ買いで出合う日本酒もいいんじゃない?
―思わず「何だろうこれ」と手に取ってしまいそうなポップなラベルですね。
柄:普段日本酒を飲んでこなかった人たちにとっての「日本酒のハードル」を下げていただきたくて、9代目於多福は「ジャケ買い」したくなるラベルにしました。
そんな柄さんも実は「ジャケ買い」で日本酒のイメージが変わったおひとり。
柄:きっかけは新政のNo.6でした。飲み屋さんで見かけて「おしゃれだな」と手に取り、味にびっくりし、今まで学生の飲み放題で飲んできた日本酒のイメージがひっくり返りました。「ちゃんとした日本酒って美味しいんだ」と。
「いっそ、柄酒造でも造ってくれないかな。」と思うようになり、「蔵を継ぐこと」について頭の片隅でぼんやりと描くようになり、いつの間にか「柄酒造を継ごう」という気持ちに変わっていました。
このポップなラベルが生まれた転機は「2018年西日本豪雨」
―もともとのクラシックな「於多福」とは雰囲気が大きく違いますね。
柄:これには2018年の西日本豪雨の影響が大きくあります。
この災害で柄酒造も被災し「ここで終わりかな」と行く末を見守っていた頃、「テレビ見たよ、頑張るんだって?手伝いに来たわ!」と地域の方々やボランティアの方々が支えてくださりました。おかげ様で2019年に復活し、柄酒造の9代目として。復活した蔵として初代になりました。
柄:帰ってきて初めて醸す「於多福」。想い入れがあって、自分でどんな味かって判断できませんでした。酒販店の皆様に飲んでいただき「9代目の「ごあいさつ」として売りませんか」とおっしゃっていただき、9代目の「ごあいさつ」として、従来のクラシカルなラベルに近くスタイリッシュな「於多福」ラベルをつけていました。
醸して2年目の際に今までの「於多福」とは違う9代目からのブランドとして「9号酵母」を使った「9代目於多福」が誕生。かつて「ジャケ買い」で新政No.6を選んだように、日本酒を飲んだことがない人、今まで他のお酒を飲んできた方々にも「あのラベル!」と言ってもらえるような日本酒にしたいですね。
「広島らしさ」とは
―ホームページで拝見した「広島らしさ」。柄酒造さんではどのような意味合いで使われていますか。
柄:「広島らしさ」って難しいですよね。広島県の酒造40蔵ほどありますが、得意な味が各蔵で異なるので「広島の味」を統一できないんですよね…。総じて言えば「小味が効いている」ということでしょうか。
柄酒造内でも、ブランドごとに味わいが異なります。従来の「於多福」は造って半年以上タンクで熟成させた、華やかなコクと米のふくよかさを感じる複雑でクラシカルな味わい。「9代目於多福」ではフレッシュで瑞々しい、瀬戸内の柑橘類をイメージさせる味わいです。
「広島らしさ」もとい「安芸津らしさ」とは何か、自問自答しながら酒造りをしていますが、飲んで瀬戸内海を思い浮かべてもらえるといいなと思っています。
―安芸津の牡蠣と「9代目於多福」の組み合わせ、美味しそうですね。
柄:甘くなく、どちらかというと辛口よりの味わいです。辛口のキレがあることで、牡蠣のフレッシュさやミルキーさを感じつつ、濃厚さをさっぱりと洗い流してくれる。そんな組み合わせが楽しめると思います。香りも穏やかに少し香りが出てくる感じなので、牡蠣の持つ磯の香りも邪魔せず余韻を味わえるかと思います。
あと、これは僕のこだわりなんですが、東京や関東圏に出すときは特に、山田錦ではなく広島の酒米「八反錦」で造りたいです。
今後の「9代目於多福」は広島県を代表する酒米「八反錦」、9代目なので「9号酵母」の組み合わせを軸に深み、軽やかさなど、味の広がりを試していきたいですね。季節の限定酒についても「この季節はどんな味にしようか」、季節の移ろいを意識した酒造りにも挑戦しています。
安芸津町の醸造家・三浦仙三郎が考案した『軟水醸造法』。発酵が進みにくい軟水の特性を活かし、発酵に時間をかけ、香り高くふくよかな味わいを生む技術を使って、安芸津の水、広島の酒米、9号酵母を生かしてどんなお酒が生まれるのか。今後も楽しみです。