広島県立総合技術研究所 食品工業技術センター 生物利用研究部長 大土井さん
「明魂」(めいこん)という名前の日本酒を聞いたことがありますか?
「明魂」は、広島県立総合技術研究所 食品工業技術センターで造られている「試験酒」です。
試験酒とは、酒造りの発展を目的とした研究の一環として、製造されたお酒のこと。
今回は、広島県立総合技術研究所 食品工業技術センターを訪れ、生物利用研究部長の大土井律之さんにお話を伺いました。
お話からは、広島発の技術開発が、5年後・10年後には日本の酒造りのメインストリームになるかもしれない…という可能性をひしひしと感じ、期待感で胸が高鳴る思いでした。
この記事では、広島県立総合技術研究所 食品工業技術センターでどのようなチャレンジが行われているのかをご紹介します。
広島県立総合技術研究所 食品工業技術センターの紹介
研究用日本酒の貯蔵タンク
「広島県の日本酒を世界中に広め、もっと消費量を増やしたい。そのために日々研究しています」(大土井さん)
広島県立総合技術研究所 食品工業技術センターは、広島県内企業の技術力向上や、産業の促進を目的として設立された研究機関です。
企業の技術力をバックアップするため、試験・技術相談・分析鑑定などが行われています。
日本酒造りに関する研究開発が行われているのは、「生物利用研究部」。
具体的には、
- 広島県独自の酒米の開発及び日本酒造りに適しているかの調査
- 広島県独自の酵母の開発及び発酵具合の調査
- 酒類の製造及び出荷管理に関する技術指導
などに取り組んでいます。
「明魂」について
「明魂」は、生物利用研究部によって開発され、製造された日本酒です。
試験醸造によるデータを取った後、研究費捻出や研究成果の披露という意味合いも含め、一般消費者にも販売されます。
「実は、日本酒の製造販売の免許を所有しているのは、全国の公設試験研究機関の中でも、広島県と新潟県だけなんです」(大土井さん)
明魂は、毎年、原料米・精米歩合・酵母・種麹等を変えて造られるため、当然ながら味や香りが酒造年度によって全く変わるといいます。
消費者からすれば、毎年変わる味わいや香りを楽しめる、とても貴重な日本酒と言えますね。
明魂の名前の由来
明魂の試験製造が開始されたのは、なんと昭和4年(昭和3年に免許取得)。
明魂、という名前の由来が気になるところです。
「明魂という名前は、昭和4年に、県職員の公募で決まったと聞いています。名前の意味については未だにわかっていません」(大土井さん)
当時の資料がほとんど残っていないことも、明魂の名前の意味がわかっていない理由ではないか、ということでした。
明魂の種類
明魂は、毎年の研究内容により、発売される日本酒の種類が変わります。
令和4年に販売された明魂は以下の3種類。
- 明魂 純米吟醸(黒色ラベル)
- 明魂 純米大吟醸(紫色ラベル)
- 明魂 純米大吟醸(赤色ラベル)
令和3年までは、純米大吟醸を造っていませんでした。
しかし近年、市場における高級酒志向の高まりや、県内の醸造業者から純米大吟醸酒に関する問い合わせが増加。
新たな研究テーマとしての必要性を感じ、純米大吟醸酒を醸造したということです。
令和4年度の明魂の特長
■純米大吟醸
純米大吟醸は、広島県のオリジナル酵母の開発を目的に造られました。
「赤色ラベル」は、広島県が2001(平成13)年に開発した広島吟醸用酵母を使用しており、フルーティで華やかな香りと甘味のある仕上がりになっています。
「紫色ラベル」は、新しい酵母を2種類使用して醸した日本酒です。
「新酵母はリンゴ酸という酸味を生み出すタイプ。また、貯蔵による劣化臭が生じにくい特特長をもっています。新酵母の味わいを感じてもらえたら」(大土井さん)
広島発の新酵母がどのような風味なのか、とても気になりますね。
明魂 純米大吟醸(令和4年度)」のぽち酒はこちらで購入できます
■純米吟醸
令和4年の純米吟醸は、新しい酒米をテストして造られたお酒です。
「広系酒44号と、広系酒45号という新しい酒米を使用し、広島県でよく使用される八反錦と比較しました。それぞれデータを取った後にブレンドして販売しています」(大土井さん)
今回テストに合格したのは「広系酒45号」。
「合格した酒米は、愛称が付けられ、来年以降市場に流通することになります。ぜひ、新しい酒米の味を感じてもらいたいですね」(大土井さん)
新しい酒米にはどんな愛称が付けられるのか、また、その味わいに期待が高まりますね。
「明魂 純米吟醸(令和4年度)」のぽち酒はこちらで購入できます
海外に向けた研究開発
「日本酒市場は減少傾向にあり、海外市場の開拓は必須だと考えています」(大土井さん)
日本酒を海外で流通させるためにネックになるのが、クール便などのコールドチェーンが無いことです。
日本酒には、常温や熱燗で美味しい日本酒もあり、それらを常温で輸送することに問題はありません。
しかし、冷やして美味しい日本酒の場合、高温に弱く、味や香りの劣化を防ぐのが難しいという弱点があります。
ところが、環境問題を考えた場合、コールドチェーンは時代に逆行しており、現実的ではありません。
「海外の人に、ぜひ、美味しい日本酒も飲んでもらいたい。そのためには高温下でも劣化しない日本酒を開発する必要がある。日々研究を重ねています」(大土井さん)
海外の赤道直下で冷蔵機能のないコンテナに積載する場合、日本酒の温度は約50度にまで上がります。その対策のため、
「そこまでタフな状態を想定して研究を続けていきたい」
と、大土井さんは熱く語ってくれました。
今回造られた「純米大吟醸(紫ラベル)」でテストした酵母は、貯蔵による劣化臭が起こりにくいという特長があるそうです。今後の可能性を感じさせますね。
高温下でも劣化しにくい日本酒の研究は、間違いなく将来の日本酒業界を担うものです。
海外でもバラエティに富んだ日本酒が流通し、たくさんの人が日本酒を楽しんでくれる未来を目指しています。
広島発の技術の結晶である「明魂」を飲んでみよう
広島県立総合技術研究所 食品工業技術センターの大土井さんに、センターでの取り組みや、試験酒「明魂」について詳しくお伺いしました。
広島県立総合技術研究所 食品工業技術センターが行っている技術開発が、広島県の酒造に与える影響は計り知れません。
広島発の新酵母や新しい酒米が全国に広まる日も遠くないでしょう。
また、高温に強い酵母の研究が進むことは、これまで以上に日本酒が海外に流通する大きな可能性を秘めています。
大土井さんは、「広島県が頑張っているか、ぜひ定期的に見てほしい」と話します。
今の日本酒業界を直視し、広島から日本、そして海外に目線を向けた研究に取り組んでいる広島県立総合技術研究所 食品工業技術センター。
その研究の成果である「明魂」を、ぜひ一度味わってみてはいかがでしょうか。